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プロローグ(完)

-プロローグ② 想定内 or 誤算-(後)
自らをs-3と言った男は、すでに銃を彼女に合わせていていつでも引き金を引くだけの状態であった。もっと精確に言うならばもう彼女の運命など、この男の人差し指の微かな屈伸運動一つで簡単にねじふせられるものであったのだ。とはいえ、彼が引き金をすぐにひかずに合図を待っているのはこの計画を隠密かつ遂行に行うためである。万に一つでも自分が誰なのか特定されてはならない。犯行現場を目撃されるなど論外だ。だから、基本的に人目のつかないさびついたビルの屋上を選んだ。それでも、何が起こるかわからないのがこの世界。ほんの小さな油断が決定的な命取りになったのを彼は何度も見てきた。
だからこそ、この1秒1秒があまりにも長くそして不安感がますのであった。それを標的を1発でしとめるための集中力で抑える、押し殺す。そのあまりの集中力に、彼はおそらく彼の目線の下のほうでぎこちなく飛ぶ白い鳩の存在にさえ気付かなかったことだろう。
無線の開始の合図から10秒が経過しようとした今、たった今、オートバイが彼女めがけて突っ込んだ。
そう、賽は投げられた。

****************************************************************
―グァッシャン―
信号の色が青になったと思い体を前進させようとした瞬間、突然、キュイーンという重いかすれる音。あまりにも突然のことで、たぶん少女にはその音の主が、中型の高級バイクの急ブレーキ音だったことには気付けなかっただろう。本能的に後ろに下がろうとするが体が動かない―というより、状況を理解していない。
『しゃがめ!』
誰?
冷静に考えれば誰でも浮かぶ最初の疑問。
だが少女にはそこまで頭が回らなかった。
音の言うとおりしゃんだ。
言われてもいないのに、両手で頭を抱え丸くなった。目をおもいっきりつぶった。
少し体を引きずられた。
その行為に違和感を感じる以前に、少女の頭はパニックだったのだ。
当然、さっきまで堅く握り締めていたはずの手提げかばんの行方など知らない。
わずか数秒の出来事。いや、1秒さえ果てしなく長く感じたくらいだからコンマうん秒の時間だったかもしれない。
バイクは少女を少しかするか、ぐらいの距離をあけてそのまま直行し、バランスを崩し、半径1mちょっとのいびつな楕円を半分描いて静止した。その後ろの車もつられて急ブレーキをかけたが、あえなくバイクともども弾き飛ばした。
それはまるで映画の特撮のよう。2,3台の車が次々と前の車との合体を遂げ、なんとも言いがたい、ぐちゃぐちゃな台形を象ったオブジェを形成した。
少女はふと顔を上げる。
炎上こそしていないものの、それはあまりにも不思議な光景だった。まわりの人が自分を半径の中心にして集まる。
ぽかーん。
この少女の雰囲気はまさにそれだった。
夢?
なんかの特撮?
あるいは、幻覚?
そしてなんともいえない違和感を背中のあたりから感じた。
痛みではない。
というよりそれは視線。
ふと後ろを振り返る。
冷静になった脳でそれを見る。
「キャー」
少女はついに叫び声をあげた。
無意識に涙が出る。
それは恐怖の涙。
彼女が音によって指示され、尻もちをついていた地面からわずか10cmの位置に白い鳩が血まみれで倒れていたのであった。
充血したそいつの目が彼女をひたすら睨み付けた。

*****************************************************************
ありえない・・・。
なぜ彼女は生きている?
ああ、、もう人が群がりやがって。これじゃもう1発なんて無理だ。
引き金はちゃんと引いた。
感触もあった。
銃弾が届くまでの時間は・・・?
ここから標的までの距離はビルの高さを150m、水平距離を20mで見積もって三平方の定理で導かれた数値が151.32m。
弾丸の速度というのはもちろん銃の性能等によって様々だが、マカロフ並みの315m/sと仮定しても、標的に届く時間は0.480秒。日本の陸上自衛隊装備の9mm機関拳銃並の性能であったならば0.084秒。まあそれよりは少し遅いだろうが、それでもストップウォッチの早押しより高速に殺せるのだ。よけるなんて不可能。
そこまで考えた所で思考を止めた。
神業ともいえる手馴れた手つきで道具を処理しその場を立ち去った。
誰かが来る、あるいは見られるというのを本能的に察知したのである。
さっきまで1秒たりとも聞き逃してはならないと聞いていたヘッドホンより流れる音は、またもや不協和音とかしたのである。

『繰り返す、計画は失敗。速やかに撤退せよ。速やかに・・・』
-プロローグ②(後)完-




-プロローグ③ 報告-
「あくまで手を出すつもりはなかったのですが・・・」
少年は言葉ではわびいれつつも、実際はこれっぽちもそんな気持ちはなく報告を続けていた。
「君ほどの腕がなければ救えなかった。感謝している。だが・・・」
上司だか、誰だか知らないが、とにかくその少年より偉いと思われる相手は続けた。
「今後はこちらに任せてもらいたい。私にも面子がある。」
「そのつもりです。」
「といいつつ1週間そっちにいるつもりなのだろう?そこまでこの任務、君が出るだけの価値はないと思うがね。」
「そうかもしれません。」
少年の返答は壊れたトランジスターのよう。相手がしゃべると、とりあえずyesの返事を返す。それだけ。ブービートラップとばかりに、例えばそこらへんの女にキスをしろと男が言ったら彼はキスをするのだろうか?

はぁ。やっと終わった。
少年はようやく開放された。
ゆっくり伸びをし、赤く染まる夕日に向かって欠伸を返す。
願わくばお気に入りの鳩だっただけに、遺体を回収して墓でも作って埋めてあげたいところだがどうやらそれは難しそうだった。
やれやれ。
あの女、とんでもない遺言を残してくれたものである。
-プロローグ③ 完-

読んでくれた方、よかったらコメントください。
酷評でもいやみでも何でも構いません。
なんかかきっぱで反応ないと、書くのがはかどらなくて果てしなく不安になるので^^;
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